会社員であれば少なからずどこかのタイミングで受けることになる昇格試験。私も管理職相当への昇格をかけた年に一度の試験を受けて、1度の面接不合格の後、2度目の受験で合格をつかむことができた。
昇格試験に落ちるのは相当に辛いことだ。会社からあなたは必要ないといわれているような気にすらなる。(本当はそんなことまったくないのだけれど)さらに、共に受けた仲間たちが先に合格していく姿を見ると、心が折れかけてしまう人が一定数出てくるのは仕方ないことのようにも思える。
私の勤める会社の昇格試験は、年に一度の試験で合格率も低く、もし不合格ともなれば次の1年を重い心持ちで過ごさなければならない。2度目も落ちてまた地獄のような1年を過ごすだけの精神を持てる自信もなく、ではどうすれば合格できるのかを真剣に考えた。そして、思考を巡りに巡らせた結果、ある答えに辿り着き、それを実践したのでその顛末までをここに記しておこうと思う。
これから管理職級の昇格試験を受ける方、試験に落ちてリベンジを狙う方などで、試験に合格したいがどうすればいいかわからない、という方に向けて何かの参考になれば幸いである。
面接に合格したければ面接官が何を見ているかを知れ
管理職相当の昇格試験の面接に合格する方法、と聞いてどのようなことを思い浮かべるだろうか。
面接官の聞いていることに詰まることなく適切に答えることができる、はきはきと良い印象を与えながらしゃべることができる、など表面上思い付くことはたくさんある。
私もこのように考えて面接にのぞんだ結果、落ちた。
なんのことはない、面接官が求めていたのは声が大きくて印象がいいとか、適切な会話ができるとか、そんなことではなかったのだ。では面接官が求めているものは何かというと、それは“この人は昇格させて会社が求める役割をこなせるだけの能力が備わっているか“ということである。
管理職相当への昇格試験であれば、将来的に複数の部下を抱えてチームを動かす仕事が想定されるため、マネジメントやリーダーシップといった能力があるかどうかが問われることになる。逆に言えば、これらの能力が兼ね備わり自分の言葉として話すことができれば、たとえ声が大きくなくても、詰まりながら話すような場合でも、その熱意や能力は面接官に伝わり、合格に至る。
自分がこれから受けようとしている試験に対して何が求められるのか、その求められる状態になるにはどうすればよいのかを、一度目の面接のときは考えていなかった。いや、考えていなかったというより気付いてすらいなかったと思う。
そうしてこれから自分は何をしていけばよいのかを考えるところから、私の2度目の受験に向けた戦いは始まった。
面接の成果=これまでの自分の仕事の成果
面接を通過しそうな人、と一口に言っても様々なタイプが存在するが、彼らには共通していることがある。
それは、自分の仕事に対して“自信“を持っているということだ。
しっかりと課題を見据え、自分の頭で考え、周囲を巻き込み、リーダーシップを持って業績を残してきた彼らは、面接の場で自分の考えに説得力と熱を持たせながら会話することができる。
説得力のある会話は、すなわち”行動が伴っている”ということだ。どんなに口先で素晴らしい回答をしても、行動が伴っていなければ説得力のある会話にはならない。
ここで逆に、漫然と仕事をしてきた人の例を考えてみる。漫然と仕事をしてきた人は、面接官が質問を掘り下げていくにつれて説得力が無くなっていく。それは先に述べたように”行動が伴っていない”からだ。
「では、そのときどのように対処しましたか?」「具体的にはどんなことをしましたか?」
このような行動を問う質問に対しての回答が薄っぺらいものになってしまう。
面接官は審査に関する厳格な基準を持ち、これまでに何百人、何千人と面接を行ってきているので、このようにして薄っぺらい受け答えはすぐに見抜かれてしまう。これは、面接の問答集に対して、面接のコツやノウハウなどを抑えた小手先の準備で対応できる類のものではない。すなわち面接の合否は面接で決まるのではなく、それまでの自分が何をどのように考えて仕事を行ってきたかで決まっているのだ。
ここまで考えて、つまり、昇格試験の面接に合格するためには、「自分の仕事に自信が持てればいい」「自分は実際に大した仕事をしているぞという実感が持てればよい」ということに気づいた。
いやいやいや、それもまた言うのは簡単だけどじゃあどうしたらいいのよ、具体的にどうしたらよいかが書かれなければ、それこそ口先だけの上っ面なアドバイスになるでしょ!という突っ込みをしたあなたは私の言いたいことをよく理解していただけている方だ。私が次に書くことを実践することで、合格はおろか、仕事に対する考え方、充実度自体が変わってくる可能性がある。
面接合格に向けて実際に何をすればよいか
先述の通り、面接の合否は面接を受ける前に決まっている。とすれば、面接を受ける前の時点で、例えば部門が抱える適切な課題に対して、周囲を巻き込み、自らがリーダーシップを取る形でマネジメントの能力を発揮した、というような経験があるとよい。
つまり面接対策なんかではなく、本当の意味で「会社の課題を解決しようと働いた」経験が必要になるのだと言える。課や部門の抱える問題に対して、自分事として捉え真剣に取り組む過程で、昇格試験の合格に必要な能力が身についてくる。合格というのはその結果生じる副産物のようなものだ。
でも、そんなこと難しくてできないよ、という方にオススメの方法がある。それはその課題を「自分がやる」と手を挙げて全体に向けて宣言してしまうことだ。
取り組むべき課題については、まずは自分で考え、「このような理由で自分はこれが課の課題と考えていて、このように取り組もうと思うのですがいかがでしょうか」と上司へ相談するのがよい。取り組むべき課題を間違えてしまうと元も子もない。
漫然と仕事をしてきた人にとっては耳の痛い話だろう。
「いまも忙しいのにそんな苦労をわざわざしなくても…」「課題の解決方法もわからないし自分には無理だ…」「自分一人でできる範囲だけで仕事をしたい…」
こういう風に感じるかもしれない。でもこれをやるのが管理職なのだ。これをやらずして昇格試験に合格したところで、その後求められる役割と、自分の能力や考え方とのギャップに苦しむであろうことは想像に難くない。そしてこれらの仕事を率先してやってきた人から合格していく。
逆に言えば、エイヤっとこのような状況に飛び込んでしまうことで、大きな業績を残すための足掛かりとなると同時に、自分自身の能力を強制的に上書きできる機会を手に入れることになる。
私自身、もはや平凡な自分の仕事人生を書き換えるにはこれぐらい強烈な責任を負う仕事が必要だと感じ、職場の課題に手を挙げ、率先して課題解決を進めることを行った。
その結果、強烈なプレッシャーに苦しみもしたが、課題解決に向けて頭をフル回転させ、必要とあらば周囲を巻き込み、そのように取り組んでいく過程で、ただ目の前の仕事をこなしていたこれまでとは全く異なる景色が見えるようになってきた。(私はこれを”開眼”と呼んでいる)
職場の課題解決に実際に取り組んだ結果起きたこと
まず身近なところでは、どのようにプロジェクトを進めるかという観点でズブの素人であることに気付き、プロジェクトマネジメントに関する書籍を読み漁った。
その過程で、そもそも問題解決とは何か、どのように考えるのが良いのか、リーダーシップとは何かなど、あまりにも多くのことを知らずにこれまで仕事をしてきたことに気付いた。
そこで読み漁る書籍の範囲(というかジャンル)が、プロジェクトマネジメントの書籍からマネジメントに関するもの、仕事の考え方に関するもの、アイデアを産み出す方法に関するもの、果ては生物学と社会学を融合したようなものまで様々な分野に及び始めた。
これらを通して思考の幅、高さ、奥行きが徐々に広がるのを実感し始め、仕事においてもどのように仕事を行うべきか、どのような課題に取り組むべきかという考え方が変化し、これまでの与えられた課題に取り組むやり方から、自分で問題を探して課題を設定し取り組むやり方に変わってきた。
そうすると面白いことに、これまであまり真剣に聞くことが出来ないでいた社長や事業部長の方針発表を、果たしてどんな進め方をするのだろうというワクワクするような心持ちで聴くことができるようになっていった。それに対して自分ならどうするか、自分の業務にはどう落とし込むかなどの行動にも思考が及んだ。
さらには人生観まで変わり始めた。自分の目の前の仕事から職場の課題、事業部の課題、会社の課題と考えていくうちに、社会課題、引いては世界に存在する課題にまで視野が及びはじめ、最終的には人はいかに生きるべきか、という問いにまで発展した。(この究極の問いに対する回答を、今なら自分なりに答えることができるが、それはまた今度の機会にする)
そして臨んだ2度目の面接。1度目は、「こういう風に答えるのが優等生っぽい回答だよな」と感じて受け答えしていたことを、「自分はこういう風に考えて実際にこういう風に行動してきた、こういう考えや姿勢が大事だと考える」といったように熱と説得力を持ちながら話すことができるようになっていた。
結果は、”合格”。評定としては、「話す姿から熱意が感じられ、これからの活躍が期待できる」というものであった。
最後に
冒頭でも述べたが、昇格試験に落ちることは本当に苦しいことだ。自分のこれまでの人生が全否定されたような気分になり、すべてがどうでもよくなるような気さえする。それでも、また同じ職場で少なからず劣等感のようなものを感じながらも働いていかなければならない。
昇格試験の感想などを色々とネットサーフィンする中で、昇格試験に落ちたから会社を辞める、同僚が受かって取り残された気分だ、開き直って仕事は頑張らず他のことを頑張る、などいろいろな意見を目にした。
もう分かり過ぎるほど分かるし、そうなるのも仕方ないと思った上でなお言わせてほしい。
どうか腐らず、もう一度立ち上がってほしい。
不合格という経験は凄まじい痛みを伴うけれど、同時にその痛みを原動力に前進する力に変えて、ちょうどバネが縮んだ後に大きく跳ね上がるように、見たこともない景色まで飛び上がることは必ずできる。
今となっては、あの時昇格試験に落ちて本当によかったと思えている。あの経験が無ければ、きっと今も、昇格はしたものの漫然と目の前の仕事をこなすだけの何の面白味もない仕事人生が待っていたと思う。
痛みは人を強くする効能をもつ薬のようなものだ。その痛みは用法一つで毒にもなるし薬にもなる。
私はこれから先もあえて痛みを伴う方を選び、その痛みに耐えながら自分を強制上書きしていこうと思う。そうすることでしか自分は成長し得ない人間だし、そうすることで本当に充実した人生が切り開けることが、今ならわかるのだから。
この文章を読んでくださった皆さんがこれからどうするのか、どうなっていくのかは私には知る由もない。しかし皆さんが少なくとも自分自身を、私と同じような流されるままの漫然人間だと思うのであれば、一度騙されたと思って、私と同じ方法を試してみることを勧めたい。
生物が数多の困難を自身の進化によって乗り越えてきたように、苦境が何らかの変化をもたらしてくれることは期待するに値する事象なのだ。
それでは皆さんの検討を祈る。
★参考書籍
私が昇格試験に向けて働き方そのものを考える上で参考になった書籍をいくつか紹介したい。
●リーダーシップの旅 見えないものを見る
リーダーシップと聞くと大層スゴイ人を思い浮かべがちだが、そうではなくまずは自分から動き出すことが全ての始まりだと教えてくれる本。自分にリーダーなんて向いてない…という人にこそ読んでほしい。私はこの本を読んで最初の一歩を踏み出すことのためらいが軽減された。
●新版 問題解決プロフェッショナル―思考と技術
昇格試験の時に論文やケーススタディがある方にオススメ。仕事で直面する問題をロジカルに考える方法について、幅広く事例豊富に示されており、試験だけでなく日常の業務でも役に立つ。単純に読み物としても面白い。
●マインドセット 「やればできる!」の研究
よく聞く言葉、マインドセット。その実態はいい仕事をする上でも家庭生活においても間違いなく超重要だということがこの本を読んでよくわかった。様々な事例を通していかにマインドセットが人生に大きな影響を与えるかを教えてくれる。昇格試験に落ちたとき、私の心は硬直マインドセットと化し、ガチガチに冷え固まった心をどうほぐしていくかが課題でもあった。その方法とは「まずマインドセットをしなやかにすること」なのだった。